「東京から歩む、生まれ変わった緑の名門」J2・東京ヴェルディ
「ヴェルディ川崎」としてJリーグ創設期の93年、94年と年間優勝するなど人気と実力を併せ持った当時の名門クラブだ。当時のヴェルディ川崎には、日本を代表するスーパースター三浦知良(現 横浜FC)、日本代表の10番を背負うラモス瑠偉、日本代表キャプテンの柱谷哲二、日本代表の北澤豪や武田修宏といった豪華メンバーが揃い、そして何よりも、その監督を務めるのが松木安太郎というから驚きだ。その後、2001年に川崎市から東京都稲毛市に移転をしてからは「東京ヴェルディ」としてJリーグを戦っている。
栄光はどこへ
ヴェルディの栄光は、幼い頃の記憶としてまだ残っている。当時のサッカー少年はカズに憧れて、ゴールを決めるとカズダンスを真似て、そこら中にカズがいたような気がする。今となっては、カズがヴェルディにいたことも知らない人がいるのではないだろうか。
ホーム「味の素スタジアム」の最寄り駅に着くと、街はFC東京(東京都をホームとするクラブ)で溢れていた。ロータリーではFC東京のマスコットが迎えてくれて、スタジアムまでの道はFC東京のフラッグが掲げられている。挙句の果てに、FC東京に染められた牛丼屋まである。この日はヴェルディの試合日だというのに、本当に試合が行われるのか不安になってしまうほど、街にヴェルディが存在しなかった。
東京に存在する二つの勢力
東京にはヴェルディの他にもうひとつ同じ東京都をホームタウンとするチームがある。それがFC東京だ。今、東京はヴェルディとFC東京で勢力が分かれている。ヴェルディは練習グラウンドの読売ランドがある稲城市や多摩市、日野市や立川市を中心に活動し、FC東京は調布市を中心として三鷹市や府中市、小平市を主な活動拠点にしている。味の素スタジアムがある調布市は、FC東京の活動エリア。ヴェルディに関するものが全く見られないのにはこうした背景がある。しかし、そうした背景を考慮しても、元々川崎をホームタウンにしていたヴェルディよりも、以前から存在していたFC東京に人気が偏っているのが現実である。寂しいことだが、且つての人気クラブも今では東京で2番手のチームになっている。
スタジアムは緑に染まる
スタジアムに近づくと徐々に緑が増えてくる。ロータリーでは陽気なDJがサポーターを迎えてくれる。一人ひとりに「いってらっしゃい」とハイテンションに声を掛けるおもてなし精神は、サポーターから愛される。急なパリピな兄ちゃんのポリピなお出迎えのお陰で、気持ちも高ぶりスタジアムへ入っていく。
グッズ売り場もそれなりに賑わっていた。ただ、販売されているユニフォームの緑は数々の栄冠を手にしていた頃に比べ鮮やかな色へ変わり、時間の流れと寂しさを感じてしまう。夕暮れと共に、スタジアムは緑のライトで照らされ、その時にはヴェルディのスタジアムに変貌を遂げていた。
「俺のヴェルディ~、オ~オ~!俺のヴェルディ~、オ~オ~!」とスローテンポで歌われるチャントには心を一瞬で引き付ける魅力がある。選手入場前の数分間だけ歌われる、いわばお決まりのチャントのはずだが、スローテンポだからこそサポーターの想いがひしひしと伝わってきて、少しの間見入ってしまった。きっとここにいる半分のサポーターは、ヴェルディの栄光時代を知らない若い世代のように見える。ただ、だからこそヴェルディの魅力に惹かれ集まった人たちであって、これだけの気持ちを込めたチャントが歌われるのだろう。
ヴェルディのゴール裏は、世代を越えて少年少女も手を叩き、大きな声を張り上げて、声援を送る。ヴェルディのゴール裏は年齢も立場も関係なく声援を送っている。クラブの歴史が長くなればなるほどに、ゴール裏にも歴史が生まれる。ヴェルディのゴール裏には「ようこそ」「共に」「みんなで」と言った言葉が並び、初めて来るサポーターのための弾幕を見かける。ヴェルディのゴール裏には「家族」のようないつでも入っていける雰囲気が、サポーターの努力よって作り上げられている。
名門として輝いていた時期に比べれば、サポーターの数も減りスタジアムの雰囲気も寂しいかもしれない。でも、サポーターのヴェルディ愛は今の方が勝っているのではないだろうか。一人ひとりの魂のこもったチャントがそう感じさせてくれた。
「共に立ち上がり、共に手を叩き、共に声出し、共に苦しみ、そして共に喜びを分かち合おう。ようこそ!ヴェルディのゴール裏へ!」
試合に勝利すると
スタンドに座っていたサポーターが前列の方へ動き始める。「落ち着かないな」と思いつつも、その様子を見ているとヴェルディが愛されるひとつの理由が分かった。
試合に勝利すると、選手たちはゴール裏のスタンドへ上がりサポーター一人ひとりにハイタッチをしてまわる。そして、スタンド中央に来ると今度はサポーターと共に勝利のラインダンスを披露する。選手の中には、サポーターから太鼓を受け取り、リズムを刻む選手もいる。試合後にサポーターと共に喜びを分かち合うクラブは多く存在するが、ここまで選手とサポーターとの距離が近く一体となるクラブはヴェルディ以外に存在するのだろうか。
生まれ変わった緑の名門
今のヴェルディに且つての輝きや栄光を求めても仕方がない。しかし、その気持ちを捨て去ると、魅力のあるクラブに進化していることに気が付く。サポーターと選手の距離が近く、まさにヴェルディの掲げる「ファミリー」のような温かみのあるスタジアムを体験できることはそうはない。ゴール裏へと繋がる入り口には、初めてスタジアムに来るサポーターを迎え入れる弾幕があり、それが今のヴェルディを象徴しているのかもしれない。過去の栄光や応援してきた時間なんて関係ない。ヴェルディが好きならそれで仲間だ。
(2016.7.10 vs岡山)
東京ヴェルディ公式HP
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